大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)254号 判決 1966年10月11日
理由
一、本件建物につき、昭和三〇年八月三一日大阪法務局江戸堀出張所受付第一六八二号をもつて、同年三月五日売買を原因とする、被控訴人より控訴人両名に対する所有権移転登記がなされているところ、右登記が、被控訴人主張のように、被控訴人不和の間に壇になされた、実体上の権利関係に符合しない登記であることは、当裁判所もこれを認める。その理由は、(省略)付加するほか、原判決理由に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
二、ところで、本件建物が既に滅失し現に存在しないことは当事者間に争がない。元来不動産の登記はその不動産について権利を有するものがその権利の得喪変更を第三者に対抗するための不動産登記法等法令の定めるところによつてなされるものである。そして不動産について権利を有するものは、登記簿上の権利関係の記載が真実の実体上の権利関係に符合しない場合には、実体上の権利に基づき、登記簿上の権利者に対し実体関係に符合する登記を請求する権利を有する。しかしながら当該不動産が滅失してしまえば、その不動産についての権利は絶対的に消滅してしまうのであるから、もと当該不動産につき実体上の権利を有し、これに基づき右のような登記請求権を有していたものもこれを喪失するものと解すべきである。
被控訴人は、本件建物が滅失しても、本件建物についての登記簿が閉鎖せられていない以上、真実の権利者から右登記簿の閉鎖手続をするためにも、本件建物の真実の権利者であつた被控訴人は滅失前の本件建物についての虚偽の登記の抹消請求権を失わないものと解すべきである、と主張する。しかしながら建物が滅失した場合の滅失登記の申請は登記簿上の所有名義人からなすべきものであるところ(不動産登記法九三条の六参照)、この場合の所有名義人は実体関係上真実の所有者であることを要しないし、滅失登記をした場合には登記官吏は職権をもつて当該不動産の登記簿を閉鎖すべきものであるから(同法九九条八八条参照)、被控訴人主張のように、建物が滅失した後まで、右のような登記請求権を認める必要は存しない。
その余の被控訴人の主張は独自の見解であつて採用し難い。そうすると、被控訴人は本件建物の滅失によりその主張のような抹消登記請求権を喪失したものであるから、右登記を求める被控訴人の本訴請求は失当である。
三、被控訴人の予備的請求(当審における新請求)について。
被控訴人の右請求は、その主張の登記の無効確認を求めるものと解せられるところ、不動産の登記は権利の対抗要件であつて、当事者間の現在の権利関係ではないから、その無効確認を求める訴の利益はない。仮に被控訴人の右請求が、その主張の登記が登記原因を欠く登記手続である事実の確認を求めるものであるとすれば、これまた当事者間の権利関係の確認を求めるものではないから、その確認を求める訴の利益はないものといわねばならない。
結局被控訴人の右請求は訴の利益を欠き却下を免れない。
四、よつて、被控訴人の本訴につき右と異る判決を取り消し、被控訴人の本訴請求を棄却し、被控訴人の当審における新請求はこれを却下する。